今日 俺を 卒業します

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 高校を卒業して10年。大人になった俺が政宗に再会したのは煌びやかな夜の街だった。  会社の同僚と入ったバーでのことだ。  重厚なドアを開けると静かなJAZZが流れていた。  天井まである棚には見たことのない、世界中のお酒が並んでいる。普段はビールとハイボールくらいしか飲まない俺には未知の世界だった。 「いらっしゃいませ」と、少し低めのハスキーボイスが俺たちを迎え入れた。背が高くすらっとした美人なバーテンダー。  黒のカマーベストにロングパンツが凛々しく、ニコリと笑みを浮かべる唇の下のほくろがとても色っぽい。  カウンターに案内されると年配のマスターがシェイカーを振っているところだった。真っすぐ背筋を伸ばし、シャカシャカと軽やかな音を立てている。足の長いグラスに注がれるとまるで宝石のように輝いた。 「こういうお店にあんまり来たことがないけど、なんかいいな」  隣の同僚に囁くと、「だろ」と声が返ってきた。 「たまたま見つけたお店なんだけどさ、最近通ってんだ」  そういう同僚は席まで案内してた彼女の姿を追う。  もしかしてこいつの目的は彼女かと勘ぐると、まんざらでもなさそうに鼻の下を伸ばした。 「今どきあんなキリっとした美女はお目にかかれないだろ。ひとめぼれってやつだ」 「へえ」と好奇心で彼女の後ろ姿を目で追う。    確かに一つに結ばれた長い黒髪がまっすぐな背中に揺れるさまは美しい。 (あれ、なんか、どっかで……?)  デジャブのように記憶の底で何かが蠢く。  あの背中をどこかで見たことがあるような……?  だけどあんな美人だったら忘れるはずがない。  俺たちはカクテルをそれぞれ注文すると、その美味しさに頬を緩ませた。  
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