21人が本棚に入れています
本棚に追加
やっぱり!
間違いじゃなかった。
じゃあなんで女の恰好なんかしてんだよ。
なんでキヨなんて違う名前を使ってんだよ。
その名前は俺のもので……昔お前が俺をよんだ名前で……。
「わかんねーよ、政宗」
引き攣る口元が震えた。
こんなにお前のことが分からなくなっていた自分が悔しくてならない。
だけど政宗は落ち着いた声で、そっと俺の腕を離した。他人に向けた優し気な笑みが広がる。
「今、買い出しの途中で急いでいるから……今度ちゃんと話す」
「今度っていつだよ」
「今度って、今度ね。いつか」
じゃあ、と立ち去りかけた政宗を追いかけて「休み!」と叫んだ。
「逃がさねーよ。お前の次の休みはいつだよ!」
周りにいた人たちが何事かとこちらを見ている。多分普通の男女の痴話げんかにしか見えない俺たち。
政宗も困惑したように立ち止まり、ふ、と息を吐いた。
「明後日」
「じゃあその日に会おう。昼でも夜でもいい。お前の都合のいいとき教えて」
政宗の手に名刺を滑り込ませて「絶対だからな」と釘を刺す。
「じゃなきゃお店に行ってそこで話してもらうからな」
俺のしつこさをしっている政宗はちいさく頷いて再び夜の街に消えていった。後姿がひどく頼りない。
最初のコメントを投稿しよう!