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待ち合せのカフェにいた政宗はやはり綺麗な女だった。どこにも男の気配がない。
向かい合って座るとまるでデート中のカップルのように見えた。
長い指の爪は丁寧に整えられて、淡い色のネイルが花びらのように並んでいる。
薄いナチュラルなメイクは政宗の整った顔をさらに引き立たせた。
よくテレビで見るような「オネエ」とは全然違う生き物。
覚悟を決めたのかスッキリとした顔つきで俺をみて笑った。
「まさか見つかるとは思ってなかったよ」
その声は政宗のものに似ているけどキヨさんのものだった。
「いつから?」
「多分ずっと昔から。女になろうって決めたのは高校を卒業する時かな」
もしかしてあの日「卒業する」と宣言したのはこのことだったのか。
「なんで黙ってた」
「言えるはずないじゃん。女になりたいって? 笑われるのがオチでしょ」
「だって俺たちは親友でずっと友達だって思ってた。……言ってほしかった」
政宗と連絡がつかなくなった時の胸のざわつきや痛みを思い出してすねたようにそっぽを向く。
「でも言ってたらどうだった? 友達でいられた?」
質問にどう答えていいのかわからない。
もしかしたら「マジかよ」って笑い飛ばしたかもしれない。多分そうだ。
政宗は運ばれてきたコーヒーに口をつけると、ふちについた口紅を指先で拭った。
「うちってさ、昔から剣道場をやったの知ってるよね。当然跡継ぎを期待されて、強くて男らしいのが当たり前だった。何も選べなかった。いつも自分の心とやっていることが違っていて、二つに分裂してしまいそうだった。綺麗なものが好きなのにそれを許されない。親の望む高校を卒業して大学に進んで、この先もずっとこれが続くのかと思ったらぞっとした」
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