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ふふ、っと笑った政宗の長い髪が揺れた。
短髪だった髪がこんなに長くなるほど、政宗は一人の時間を過ごしてきた。それはキヨを育てている時間だったのかもしれない。
「ごめんね、裏切るようなマネをして。こういうことだから政宗のことは忘れて」
立ち上がろうとする手を思わず掴んでいた。
「正直言って頭の中が混乱してわけがわかんなくなってる。政宗がそんなに苦しんでいたなんて知らなくてごめん。それは謝る。話を聞いてもやれなくて……でも俺は子供だったし。バカだったからなんも知らなくて、何もできなくて……」
言い訳じみた言葉ばかりが漏れる。
あれから10年もたって大人になったのに何も変わっていない。何もできない。理解してあげれない。
なんで政宗がこうなってしまったのかわからない。
憤りが言葉の暴力となって口に出た。
「……なんで女になったんだよ」
ピクリと政宗が震えた。
「なんであのままじゃだめだったんだよ。もっと何かうまくできなかったのか? 綺麗なものが好きならそうするとか、政宗のままで、どうにかさ」
「出来たらしてるよ」
低く悲しみに満ちた声が落ちてきた。
「できることなら穏便に済ませたかったよ。親を悲しませたくなかったよ。清伊たちと、ずっと友達でいたかったよ。男のままでいられたら……何も壊さずに幸せな日々を過ごせたのかもしれないね。でもできなかった。心が壊れてしまう前に逃げた。全部悪いのはわたし」
スルリと手が逃げていった。
もう触れることを許さないと政宗が全身で告げていた。
「ごめんね、清伊って名前の響きが大好きだったの。勝手にもらっちゃった」
政宗は一瞬目を伏せて、顔を上げると微笑んだ。何かを吹っ切った人のキラキラ輝くような笑みが浮かんでいる。
「じゃあね。お元気で。会えて嬉しかった」
すり抜けていく政宗を止める手立てが何も見つからなかった。俺はお店の人に声を掛けられるまでずっと俯いていることしかできなかった。
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