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『俺、卒業する』
俺はあの時ほど張り詰めた声を聞いたことがない。
高校の卒業式は今でも思い出せるくらい晴れた青空の日だった。
春になりかけのまだ肌寒い気温と、道路わきの雪の塊。
空は雲一つなく、これからの門出を祝っているかのように晴れ晴れとしていた。
さっきまで写真撮影に賑わっていた校門前も今は誰もいない。
先生には帰れと言われたけれど、仲の良かった友人たちと別れがたく「じゃあな」の一言が切り出せない。
特に文武両道で男らしい政宗とは無二の親友というような関係で、明日から顔を合わせないのは変な気分だ。
いつも隣にいるのが当たり前だったから、卒業して離れてもこの関係は変わらないだろうと信じていた。
だからずっと黙っていた政宗があまりにも真剣に「卒業する」と口にしたとき、俺は何を言ってるんだと笑った。
「そりゃ卒業するよ、卒業式だもん」
「そうか、そうだな」
政宗も困ったような笑みを浮かべていた。
そう。
今日はみんなが卒業する日なんだから。
バカな俺は別れ際の政宗の言葉の重さや意味をちゃんと理解していなかった。
異変に気がついたのは卒業してしばらく経ってからだった。
新しい生活にも慣れ、久しぶりにみんなで集まろうとメッセージアプリを開いた時だった。
そこに政宗の名前はなかった。
過去の会話の履歴だけが残されている。
「えっ、なに、どゆこと?」
今までつながっていた全てが切られていた。電話も解約され、知っているIDはことごとく使われなくなっていた。
あれだけ毎日どうでもいい話をしていたというのに、スマホ一つ、アカウントを消されるだけで何も知らない他人へと変わってしまう。
政宗の形跡は過去にあるだけで、この先へとどうやっても繋がらない。
「どうして……?」
別れ際の寂しそうな顔が思い出された。
政宗に何があったのか、知らないうちに嫌がることをしてしまったのか、いくら考えてもわからない。
こうなれば連絡のしようがなくあっけないほど簡単に縁は切られた。
だけど最初はザワザワしていた胸のうちも日にち薬というように、毎日の楽しさにまぎれ忘れていく。そういえばあんなことがあったなと時々懐かしむ程度になるのはあっという間だった。
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