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序章
男は陽が沈む刻に朱色に染まる空を見上げていた。
炎帝神農がこの地を治めて、520と幾年。
八代にも渡って治めていた。
だがなぜだろう。
男の周りには、笑顔など一つもない。
血と涙が溢れている。
女どもが天幕を張り、薪をくべ始めた。
夕飯の準備だろうか。
太原の中では珍しい方だ。
だが、ろくなものではないのだろう。
ここ数年太原で戦が絶えたことなど立ったの一度もない。
田畑は荒らされ、嵩からは難民、いや罪人が絶えない。
当然まともな食事が出回ることが、あるはずがない。
せっかく夕飯の香りがする頃なのに、代わりに血の匂いが充満している。
湿気が多く、薪をくべたことにより、戦の後に残った物が出てきたのだ。
こんな場所に定住なんてできるはずがない。
ここら一帯にいる群衆は明日にでもここを立ち、
北の国、恒へ向かうために山越えを企んでいる。
男がこの場所にいるのもコレで最後。
特にこんな場所に未練など無いはずだが、
不意に顔を上げた刻、
朱銀に輝く大空に見せられてしまった。
この太原の中ただ一人だけ、空を見上げていたこの男だけが見てしまった。
輝く空に一筋の光を。
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