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私に冷たく当たっていた先輩から、思いがけず小さな花束をもらい、その他酔っ払い達からの別れの言葉に頭を下げ、彼らに背を向ける。それから、近くでタクシーを呼び止めて自宅のマンションまで直行。ジーンとする頭とムカムカ感に加えて、車の揺れと加速と減速の繰り返しに閉口する。
四階建てマンションの前にタクシーが静かに停まると、早く家に入りたい衝動に駆られるも、お釣りはしっかりもらって、腰をスライドさせながら下車。
一階で良かったと思いつつ、ふらつく足取りで10X号室を目指し、磁力で引き寄せられるように鉄扉の前で寄りかかる。気を失いそうになるのを堪えて、バッグから鍵を取り出し、解錠して体を滑り込ませた。
扉が閉まって全身が闇に包まれるが、酔っていても手が覚えているスイッチの位置に右手をかけてパチン。暖色系の電球の明かりが降り注ぐと同時に、体を半回転しながら扉の方を向いて、玄関のマットの上に座り込んだ。
自宅に入った安堵感から、体を右に倒して壁にもたれかかり、長い息を吐く。
すると、背中を擦られる感触が服を通して伝わった。
――ああ、そうだった。
振り返った私の朦朧とした視界に、白・茶色・焦げ茶の三色の塊になりかけた猫の姿が映った。
「ただいま」
この家で唯一、私を出迎えてくれる家族に、帰宅の挨拶をするのを忘れかけていた。
ココミ、五歳、メス。いわゆるキジ三毛の三毛猫。
スリスリと、体を私に擦りつけてくる。
でも、頭が痛くて、何もしてやれない。
私は鉄扉の方へ向き直り、溜め息を吐くと、床に沈み込む感覚に襲われて気を失った。
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