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床の上で上半身を起こした私は、自分の両手と体と両足を見て、安堵の胸をなで下ろす。
――間違いない。これは、寝ると体が入れ替わる呪いだ。
でも、誰が、何の目的で?
飼い猫の目線で人間の世界を見て、いろいろ体験して、飼い主が猫の気持ちを知るため?
ちゃんと世話をしないと、猫が可哀相よ、と飼い主へ教えるため?
大丈夫。私は、ココミの気持ちを分かってあげているつもり。今まで、可哀相な事をした覚えがない。
――なーんて、胸を張って言えないな。
大学を出て職にも就かず、このマンションでダラダラと生活して、ココミと遊ぶ毎日。
でも、母親に怒られて、1ヶ月前から派遣の仕事を始めた。
平日、ココミの相手をするのは夜。休日も寝てばかり。
寂しい思いをさせていたかも知れない。
――それが原因なら、一体、誰が呪いをかけたのか?
腕組みをして考えていると、猫に戻ったココミがスーッと近づいてきた。
ふと、夢の中で聞いた母親の言葉を思い出す。
「ねえ、ココミ?」
私は、ココミを両手で抱き上げた。
「夢の中で、お母さんが『この猫が悪さをしている』って言っていたんだけど」
首を傾げるココミを真似して、私も首を傾ける。
「呪いをかけたのは、まさか、あなたとか?」
「――――」
無言のココミが、不気味に笑う。
異様なほどに口角を吊り上げて。
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