婚約者と猫とわたし

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「はじめまして、ミリアさん。サヴォイ家のレナートです。今日はミリアさんのお見舞いに参りました。また日を改めてお伺いします。会ってくださってありがとうございます」  さらさらと耳に心地よい低音で、レナートは白猫ダリアに話しかけている。ミリアさん、と。  にゃあ、とダリアは律儀に返答をしていたが、ミリアとしては首を傾げざるを得ない。 (嫌味かしら?) 「三年前、あなたがご病気と聞いたときに、すぐに見舞いに来ようとしたものの、起き上がるのも難しい病状とのことで……。以来、ずっと人づてに話を聞くだけの日々でしたが、最近は以前よりずいぶん体調がよくなったと。私も嬉しいです。お会いできない間、手紙のやりとりだけでしたが、これからはこうしてなるべく一緒の時間を過ごせたらと思います」  にゃあ。 「ふふっ。どんな方かと想像することはありましたが、まさか猫だなんて。嬉しい誤算だな」  にゃあ~。 (誤算すぎるでしょう……っ!!)  嫌味でなければまさかの本気? とミリアは不安になって、そーっと腰を上げて寝台の向こうをうかがう。  目が。  合った。  確実に。  寝台の反対側から、腰をかがめて猫に話しかけていたレナートと、ばっちりと視線がぶつかった。  レナートは、噂に違わぬ好青年に見えた。黒髪に、きらきらとした黒瞳。通った鼻筋、微笑を浮かべた唇。派手さはないが整った容貌で、全体的に優しげで誠実そうな印象を受けた。  その黒の瞳は明らかにミリアを視認していたが、すっとそらされた。そのまま、寝台にきちっと座っているダリアを見た。 「ミリア嬢はうつくしい方だとお聞きしていましたが、想像以上です。愛らしすぎて、胸がどきどきしていますよ。好きです、その白い毛並み。ぴんとしたお髭も素敵なアクセントですし、その目の輝きと言ったら」  猫。  完全に、猫の話をしている。 (もしかして、私のこと、見えてない……!?)  そんなわけないのに、そう思ってしまうほど。  レナートは、完璧にミリアを黙殺してダリアだけを見つめていた。  それは去り際まで徹底されており、優雅に一礼をして「近いうちにまたお目にかかれますように」と爽やかに告げて退室していった。  ぱたん、とドアが閉まる音がしてから、ミリアはがばっと立ち上がる。 「え、どういうこと……!? レナート様って、一体何ものなの……!?」  * * *
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