#6 埋め合わせが出来ない孤独

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山田は頭を抱えて動かない。 そこへ、叢雲は畳掛けて口を開く。 叢雲「山田。その様子だと、山田翔太がこんな状態になっている事は知らなかったみたいだな。どれぐらい会ってなかったんだ?」 山田「・・・あいつが、高校に入学してからだ。ヤクザの兄貴が近くにいると、あいつに迷惑がかかると、そう思った・・・」 叢雲「・・・そうか・・・山田翔太は、入学した当社は、お前の思っている通り普通の真面目な学生だった。だが、それが変わったのは高校2年の6月頃、山田翔太が入部していたサッカー部が地区総体に出場した時、同じくサッカー部のマネージャーだった北村香奈さんが、助っ人として相良君を呼んだ事がきっかけだと、他の部員は口を揃えて言っていた。」 山田「何だと?」 叢雲「勘違いをするなよ。相良君は別に問題行動を起こした訳じゃない。たった一人で3ー0の後半戦を逆転勝利させた。サッカー部からすると逸材である事は間違いないが、山田翔太のプライドはズタズタにされたとの事だ。更に、山田翔太はマネージャーの北村香奈さんへ好意を持っていたが、相良君と北村さんは入学前から恋人同士だった。それが、余計に彼を追い詰めたのかもしれない。」 山田「・・・一度だけ、翔太から連絡があった。それは、惚れた女を振り向かせるにはどうしたらいい?という話だ・・・俺はその質問に、男らしくカッコよくなれと、自分を磨けといったが・・・」 叢雲「・・・どうやら、それは屈折した形で伝わったみたいだな。この映像の状態を見ると、山田翔太の男らしさは不良となる事だった。」 山田「・・・あいつは・・・まさか・・・俺に・・・?」 叢雲「あぁ・・・どこかでお前がヤクザをしている事を知った。仁々木組と接触した時か、それ以前かわからないが、兄貴の様になれば、男らしくなって、北村香奈さんを振り向かせれる。そう思ったのかもしれない・・・」 山田「・・・」 叢雲「その結果、何をして、どうなったのかは、さっきの映像の通りだ。」 山田「・・・だったら・・・そうだったら・・・俺がしてきた事は・・・」 叢雲「そうだったらじゃない、そうなんだ。」 山田「・・・なぁ・・・叢雲さん。あんたは、なんで俺にこの映像を見せたんだ?」 叢雲「・・・さっきも言っただろ?俺は真実に拘っている。お前が本当の事を知らないで、相良君へ何をするのか、それを決める事は間違っている。」 山田「・・・あぁ・・・間違ってる・・・だったら、俺はどうすればいい?俺は、あいつが、翔太が普通の学生で北村香奈を助けに行って、相良に殺されたと・・・思っていたが・・・それは全て、妄想だったってことかよ・・・だったら、俺がした事は・・・」 叢雲「・・・」 山田「俺が・・・復讐であいつの・・・親を・・・殺したのは・・・」 山田仁は、自らの罪を認めた。 だが、山田の中にあるのは強い罪悪感と後悔。 山田には大義名分があった。 何も悪くない弟を殺された事への復讐。それが山田の正義であり、強い意志だった。 だが、それは弟は悪ではないという前提で成り立っている正義だ。
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