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二つ目は、こんな男でも家族がいる事だ。
新聞記者の仕事柄、相手の仕草や動作等に自然と目が行き、観察する事はある種の職業病とも言える。
男の鞄に入っていた弁当箱の包みは、恐らく家族が作ったものだろう。
痴漢の事件となれば、この男の家族は、何事も無く日常を過ごせなくなる。
そう思い、深田は男を逃した。
「ありがとうございます!!」
深田「え!?」
突然女の子の大きな声が背後から聞こえた。
驚きながら背後を振り向くと、そこには痴漢被害にあっていた女子学生が深々と頭を下げていた。
もう行ってしまったと思っていた深田は、不意を突かれた様に驚く。
深田「あ、えっと・・・」
どうしたものかと困惑する。
何故ならば、この子は被害者であり、本来ならば男を逃すかどうか判断する事はこの少女ができる事だ。
それを自らの判断で逃した。
とりあえず、ありきたりな返答をしよう。
深田「大丈夫だった?」
「はい!!お姉さんすっごいかっこよかったです!!」
深田「そ、そうかな?」
こんなに真正面から感謝されると、正直照れる。
深田「でも、ごめん勝手に逃しちゃった。」
「いえいえ、私は助けてくれただけでも十分です!!」
深田「そ、そう。」
少女の真っ直ぐな目。
それには、見覚えがある。
いや、経験がある。
深田自身も過去に同じ目をしていた時がある。
憧れと尊敬の眼差し。
普通なら、照れ臭くもなり、その気持ちを素直に受け取るのだが、深田は、少女の目を正面から見る事ができなかった。
自然と、目は泳ぐ。
泳いだ目の先に時計が視界に入る。
午前
7:00
深田「やっば!!ごめんまたね!!」
「あ!!名前だけでも!!・・・」
深田は駅の出口へ向かって全速力で走り出す。
そう、あの鬼畜先輩から一方的に言われた時間、それが今である。
遅刻。
死ぬほど怒られる。
そんな焦りから、深田は途中で休む事無く、常に走り続けた。
自衛隊で鍛えた走力と持久力は並ではないのだ。
深田「はぁはぁはぁ!!」
エブリデイ新聞
8階オフィス
「・・・」
椅子に座り、デスクを指でコツコツと叩く眉間に皺が寄っている男性。
誰がどう見てもイライラしている。
「あの野郎・・・」
そのせいか、彼に近づく人間はいない。
半径5メートルに形成された目に見えない謎のイライラしてますフィールドが、周囲の社員を近づけない。
遠くの方から、バタバタとした足音が次第に大きくなる。
その足音がオフィス入り口に差し掛かる。
バン!!
扉が勢いよく開く。
そして、男性の周囲に展開された特殊フィールド。
通称「憤怒の絶対領域」へ突撃する無謀な人間がいた。
深田「すいま」
「おそぉおおおおおおおおおい!!!!!!!」
深田「ヒギャアアア!!」
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