#1 深田 優子

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二つ目は、こんな男でも家族がいる事だ。 新聞記者の仕事柄、相手の仕草や動作等に自然と目が行き、観察する事はある種の職業病とも言える。 男の鞄に入っていた弁当箱の包みは、恐らく家族が作ったものだろう。 痴漢の事件となれば、この男の家族は、何事も無く日常を過ごせなくなる。 そう思い、深田は男を逃した。 「ありがとうございます!!」 深田「え!?」 突然女の子の大きな声が背後から聞こえた。 驚きながら背後を振り向くと、そこには痴漢被害にあっていた女子学生が深々と頭を下げていた。 もう行ってしまったと思っていた深田は、不意を突かれた様に驚く。 深田「あ、えっと・・・」 どうしたものかと困惑する。 何故ならば、この子は被害者であり、本来ならば男を逃すかどうか判断する事はこの少女ができる事だ。 それを自らの判断で逃した。 とりあえず、ありきたりな返答をしよう。 深田「大丈夫だった?」 「はい!!お姉さんすっごいかっこよかったです!!」 深田「そ、そうかな?」 こんなに真正面から感謝されると、正直照れる。 深田「でも、ごめん勝手に逃しちゃった。」 「いえいえ、私は助けてくれただけでも十分です!!」 深田「そ、そう。」 少女の真っ直ぐな目。 それには、見覚えがある。 いや、経験がある。 深田自身も過去に同じ目をしていた時がある。 憧れと尊敬の眼差し。 普通なら、照れ臭くもなり、その気持ちを素直に受け取るのだが、深田は、少女の目を正面から見る事ができなかった。 自然と、目は泳ぐ。 泳いだ目の先に時計が視界に入る。 午前 7:00 深田「やっば!!ごめんまたね!!」 「あ!!名前だけでも!!・・・」 深田は駅の出口へ向かって全速力で走り出す。 そう、あの鬼畜先輩から一方的に言われた時間、それが今である。 遅刻。 死ぬほど怒られる。 そんな焦りから、深田は途中で休む事無く、常に走り続けた。 自衛隊で鍛えた走力と持久力は並ではないのだ。 深田「はぁはぁはぁ!!」 エブリデイ新聞 8階オフィス 「・・・」 椅子に座り、デスクを指でコツコツと叩く眉間に皺が寄っている男性。 誰がどう見てもイライラしている。 「あの野郎・・・」 そのせいか、彼に近づく人間はいない。 半径5メートルに形成された目に見えない謎のイライラしてますフィールドが、周囲の社員を近づけない。 遠くの方から、バタバタとした足音が次第に大きくなる。 その足音がオフィス入り口に差し掛かる。 バン!! 扉が勢いよく開く。 そして、男性の周囲に展開された特殊フィールド。 通称「憤怒の絶対領域」へ突撃する無謀な人間がいた。 深田「すいま」 「おそぉおおおおおおおおおい!!!!!!!」 深田「ヒギャアアア!!」
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