0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
アニマル
「ネコをさ、拾ったんだ」
会社の昼休み、一緒に向かい合ってうどんを啜っていた同僚のヤマザキが、嬉々とした顔を俺に近づけると小声で言った。
「ネコ?」
「この間拾ったんだよ、可愛い子」
ネコ好きの俺は、心底羨ましいと思った。最近は治安がいいし明るいから中々居ない。出来れば俺が見つけたかった。
「それでさ、モリノに相談したくて」
拾ったは良いがネコの飼い方が分からず、ヤマザキは困っている様だった。
「俺が預かろうか?」
顔はいたって平然を装いながら、お願いだから首を縦に振れ、と願いながら尋ねる。
「いや、それは良い」
きっぱりと断られた。
「なんでだよ。ネコ好きだし部屋数は沢山ある。一匹飼うのなんて余裕だよ」
「いやぁ……」
ヤマザキは眉を下げて口角を片方上げ、目を魚のようにギョロギョロと泳がせながらうどんを啜る。啜り終えて水を飲み、ヤマザキは一息ついて口を開けた。
「俺が知りたいのは飼い方で、飼い主は探してない。飼い主は俺だ」
そうか、それなら仕方がない。諦めるしかないみたいだ。
しかし、ヤマザキのアパートはワンルームで狭かった気がする。そんな部屋で育てられるだろうかと、心配になる。でも、俺と違って正義感とか義務感が備わっている奴だから、上手く出来るだろう。
「モリノは最近、子どもが産まれたそうだな。どう?元気にしてる?」
「あぁ。滅茶苦茶に元気だ」
「そうか、良いな。今度会わせてよ」
「あぁ……」
本当は嫌だったが、俺も後でヤマザキのネコが見たかったし、断れなかった。
「どう?子育て。難しい?」
「まぁ難しいがやり甲斐はある。日々成長だ。サラリーマンと同じだな」
俺の言葉をヤマザキはハハッという乾いた笑い方をしただけで、また携帯に顔を戻した。
「ネコは?」
携帯に目を落としたまま聞かれた。
「棄てたよ」
俺はうどんのキツネを頬張る。社員食堂のキツネは分厚くて甘くて美味しい。俺はキツネが大好きだ。
「大丈夫なのか?」
「あいつは首輪のない野良だし大丈夫だよ。それより、猫が必要なんだよな。ほら、動物は人生の先輩になるって言うだろ?一緒に育てれば良いって何かの本で読んだんだ」
「あ、猫のことか。それなら後輩のタチバナの実家で子猫が産まれたみたいだから、聞いてみたらいいんじゃないか?」
「そうか。ありがとう」
昼飯を食べ終えた俺たちは席を立ち、 仕事に戻る。父親になったんだからしっかりと働いて、立派なネコを育てなければいけない。
ようやく俺にも、使命感が備わってきたみたいだ。
最初のコメントを投稿しよう!