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「あーあ、俺も彼女欲しいんだけど。どっかにいない? フリーの女の子」
大学の廊下を歩いていると前を歩く数人のグループの会話が漏れ聞こえてくる。
「ハハハッ、タクトの好みってどんなのよ?」
「んー、ロングヘアの色白美人? ユリみたいにガチャガチャうるさくなくて落ち着いた人がいいなぁ」
「いるじゃん、ぴったりの子。山本 沙耶! まさに理想じゃん」
えっ!?
突然、自分の名前を呼ばれて驚いた。
「げっ! あれはないだろ!?」
私が対象外なのは分かってる。
だからって、こんな言われ方して傷つかないわけじゃない。
「なんで? あの子、誰よりも長い髪で、誰よりも色白よ? しかも、誰よりも落ち着いてる」
「長けりゃいいってもんじゃないんだよ。あんなに長いと、全然綺麗だとは思えないんだよ。それに、あれは落ち着いてるんじゃなくて暗いんだし。絶対、会話つづかねぇじゃん」
分かってる。
そんなことは言われなくても分かってる。
でも、どうしようもないじゃない。
私は、それ以上、聞きたくなくて、そのまま通りかかったトイレに逃げ込んだ。
私は、母が長い髪が好きだったこともあって、生まれてから一度も髪を切ったことがない。
お尻の下まで届く髪は、生まれたまま伸ばしてるので、傷んでいることもあって、不揃いに先細りになっている。
そして、生まれつき色素の薄い私は、肌も色白というより、抜けるように青白く、体つきが痩せていることもあって、よく病人と間違われる。
髪の色も薄く、生まれつきのアッシュブラウン。
そして、人見知りの私は、大学には友人と呼べるほど交流がある人はいない。
当然、恋人もいない。
就活の時も、担当の先生に言われた。
清潔感が大切だから、その髪は、切るかまとめるかしなさいって。
でも、生まれてから一度も切ったことのない髪を切る勇気が持てなくて、面接のたびに、母に編み込んでもらってシニヨンにまとめた。
でも、普段は、出来るだけ人と目を合わせたくないから、顔を隠すために、結ぶこともせず、下ろしたままにしている。
大学4年、22歳にもなって、化粧の仕方もよく分からず、常にすっぴん。
だって、高校生の頃は、化粧した子は先生に怒られてたから、なんとなく化粧はいけないことのようなイメージがあるんだもん。
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