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でも、このままじゃいけない。
卒業式を終えた私は焦り始めた。
仕事に行くのに、毎日、早起きして、母に超ロングヘアをまとめてもらうわけにはいかない。
一般的なOLさんが、すっぴんで通勤しないってことも分かってる。
けれど、なかなか決心がつかないまま、入社式前日になった。
私は、近所の寂れた美容院に向かった。
人気のある華やかなお店に行く勇気はなかったから。
もう70近いおばあちゃん美容師さんが一人でやってるお店。
「あら、沙耶ちゃん、どうしたの?」
私が髪を切るわけがないと思い込んでいる美容師さんは、美容院に来てるのに、不思議な質問をする。
「あの、明日、入社式なんです。毎朝、簡単に準備できるOLさんっぽい髪型にしてください」
私は決心が揺らぐ前に、決めてきた台詞を一気に吐き出す。
「まぁまぁ! それはおめでとう! じゃあ、とびきり綺麗にしてあげなきゃね」
そう言うと、美容師さんは、鏡の前に置いてあったタブレットを取り出した。
おばあちゃんとタブレットっていうミスマッチに驚いていると、美容師さんはサクサクと検索を始めて、私に画像を見せてくれた。
「こんな感じでどう? あんまり短くするのも、慣れなくて落ち着かないでしょ」
見せてくれたのは、綺麗なモデルさん。
肩甲骨の下辺りまでのロングヘアでゆるふわなパーマがかかっている。
「はい、じゃあ、これで」
私は、勧められるままその髪型を選び、黙ってされるがままお任せする。
そうして2時間後、見違えるほど華やかな髪型の私になった。
けれど……
「あとは、お化粧を頑張らなきゃね。お化粧、したことある?」
そう、血色の悪い貧相な顔立ちが、髪型に負けてしまっている。
「就活の時に母に手伝ってもらって少し……」
でも、それもファンデーションと口紅くらい。
「じゃあ、このままデパートの化粧品売り場に行って、化粧を教わってらっしゃい。沙耶ちゃんは、元々美人さんだから、チークとアイシャドウを入れるだけで、すごく化けるわよ?」
そんなわけない。
元々美人さんなら、こんなに髪型に負けるはずないもん。
それでも、人の意見を否定できない私は、
「はい、そうします。ありがとうございました」
とお礼を言って、お会計を済ませると、そのままデパートへと向かった。
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