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「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
最初に覗いた化粧品屋さんで早速声をかけられる。
「あの、明日、入社式なんですが、あの、お化粧の仕方が分からなくて……」
私が辿々しくそう言うと、店員さんは、心得たとばかりに、にこやかな笑みを浮かべる。
「じゃあ、こちらに座ってください」
促されるままそこに座り、たくさんの化粧品を並べられる。
その中からひとつひとつ、私の肌に合うものを選んで、
「こう塗るの。自分でやってみて」
と、私に使わせてくれる。
「まつ毛は元々長いから、ビューラーとマスカラで十分だけど、明日の朝、いきなり使うのは難しいから、今夜、練習してね」
化粧を終えた私の顔は、それまでの青白い陰気な顔ではなく、まるで華やかなOLさんのように見える。
こんなに変わるんだ!
感動した私は勧められた化粧品を全て購入し、お化粧の仕方を解説した冊子をいただいて帰る。
帰宅後、何度もお化粧の仕方を練習し、翌朝を迎えた。
晴れ渡った空の下、私は意気揚々と入社式に向かう。
その日は、社長の訓示を聞き、入社に伴ういろいろな手続きの書類を書かされ、翌日からの説明を受けて、そのまま帰宅する。
人見知りの私は、休憩時間に、何人かの同期に話しかけられるけれど、相槌を打つことしかできないまま、 1日が終わってしまった。
こんなんで、私、やっていけるのかな。
配属は営業事務らしい。
営業事務ってどんなことをするんだろう?
不安なまま、夜が明ける。
私は、シンプルなべっ甲色のヘアクリップで髪をハーフアップにし、慣れない手つきで頑張って化粧をする。
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