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「おはようございます」
私は、頑張って挨拶をして、営業部に足を踏み入れる。
「ああ、新人さんだね? 高橋さん、新人さん来たよ。よろしく」
窓際からこちらを向いて座っている男性がそばの女性に声をかける。
すると、立ち上がる女性の横をすり抜け、ひとりの男性が私のところへやってきた。
「めっちゃかわいい! てか、美人! 俺、湯浅 徹。よろしく」
そう言って手を差し出す。
これは、握手?
男性の手に触れたことがない私は、どうしていいのか分からなくて戸惑うけど、握手を求められて断るのは失礼よね?
私が、おずおずと手を差し出すと、湯浅さんは、パッと私の手を取り、握った。
「ぅわっ! 細くて綺麗な手」
明るく賑やかに話しかける彼は、私より2つ3つ年上に見える。
「こらっ! 湯浅! いきなり、新人に手出すな。お前のせいで明日から来なくなったらどうするんだ!」
窓際の男性から、罵声が飛ぶ。
「ええ!? 俺は沙耶ちゃんの緊張をほぐそうと……」
えっ、何で私の名前……
まだ、自己紹介もしてないよね?
「湯浅くん! 山本さんがびっくりしてるでしょ! ナンパはよそでしてもらえるかしら?」
湯浅さんから遅れてやってきた女性が、叱咤する。
「ごめんなさいね。昨日から、新しい子が来るってそわそわしっぱなしなの。先輩社員でも、迷惑なら迷惑ってはっきり言っちゃって大丈夫だからね」
この人が仕事を教えてくれるのかな?
20代後半に見えるその人は、優しく話しかける。
「とりあえず、山本さんの席は、ここ」
そう言って、高橋さんは、自分の隣の席を指し示した。
「隣に湯浅くんがいてうるさいかもしれないけど、基本的に全部無視でも構わないから」
あ、あの人、隣の席なんだ。
「始業時刻になったら、朝礼で自己紹介の時間があると思うから、何を話すか考えておいてね」
「はい」
人前で話すのは、すごく苦手。
でも、今日はきっと自己紹介させられるだろうと思って、昨日、練習してきた。
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