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席に戻ってきた湯浅さんは、パソコンを開くと、カタカタと無言で打ち始める。
今朝の騒がしかった姿からは想像できないくらいの別人。
寡黙で真剣に仕事する男性って……
私は、生まれて初めて胸の奥が締め付けられるような不思議なざわめきを覚えた。
そうして、定時の18時まであと10分という時、
「終わったぁ!」
と、隣で湯浅さんが声と同時に両手を上げて伸びをする。
ふふっ
なんだか、かわいい。
年上の男性を捕まえて、かわいいはないと思うけど、でも、その無邪気な感じをかわいく感じてしまうんだから仕方ない。
そんなことを思っていると、湯浅さんが、くるりとこちらを向いた。
「これで沙耶ちゃんとデートに行ける」
えっ?
驚いた私は、固まったまま目だけをしばたかせる。
「売上上げたら、デートに行く約束だろ?」
それは……
確かにちゃんとは断らなかったけど……
私がどう答えていいか困っていると、横から高橋さんが口を挟んだ。
「チッチッチ、残念だね、湯浅くん。今日は、山本さんの歓迎会だから、君とのデートは無理だね」
えっ?
それも聞いてない。
私は、左右の2人を交互に見比べる。
「は? 今日、歓迎会をするなんて、聞いてませんよ!」
湯浅さんが驚いて声を荒げる。
「だって、今、決めたんだもん。課でやる歓迎会は、また改めて企画するけど、とりあえず、今日は有志で歓迎会! はい、今から、山本さんの歓迎会、行く人〜?」
高橋さんは、くるりと椅子を回し、辺りを見回しながら尋ねる。
すると、戻っていた数名が、「行く行く!」と手を挙げた。
「はい、決まり〜! ま、湯浅くんも混ぜてあげるから」
勝ち誇った表情の高橋さんは、楽しそうだ。
「山本さん、今日、何か用事ある?」
高橋さんに尋ねられて、私は首を横に振ることしかできなかった。
こんな風に、みんなから受け入れてもらえるのって、生まれて初めてかも。
私は、胸の奥がじわりと熱くなるのを感じた。
─── Fin. ───
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