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なぜラプンツェルが将来を知っているのかというと、彼女の人生五度目だからである。
ラプンツェルは物心ついた時には塔の中に一人であった。
どうも拾われっ子のようなのだが、拾い主である魔女の溺愛がひどい。外は危険、凶悪、ここにいればいいと塔から出してもらえずに育った。
魔女は数時間おきに髪を伝って登ってきて、食料や雑誌、娯楽グッズなどを置いていったり、内職などを手伝わせたりする。
そのため時間を持て余すことはないのだが、外の世界に強い憧れを抱くラプンツェルは、イライラと日々を過ごしていた。
しかしある夜、窓から垂らしていた髪を伝って王子が侵入してきた。
ネイルに集中していたラプンツェルは王子が窓を乗り越えてくるまで気付かず、突然ぬっと部屋に入ってきた男に仰天した。
そもそも、魔女以外の人間を見たことがない。
雑誌で読んでいたので知識はあったが、実際に目の当たりにすると恐怖もあったし、そもそも突然塔に押し入ってくるという野蛮な行動に身の危険を感じた。
王子は囚われのラプンツェルを救おうとやってきたのだが、彼女はそれを知る由もない。
話も聞かず盛大に抵抗し、揉み合い、二人仲良く塔から転落して、死んだ。
──そして。
気付けば、ラプンツェルは元の生活に戻っていた。
王子がやってくる少し前。しかも以前の記憶もある。
ラプンツェルは自分が人生をやり直していることに気付いた。
もしかしたら、王子がまた来るかもしれない。
そうしたらどうしよう。
ラプンツェルは考えた。
前の人生ではあまりに驚いて抵抗したが、話をしたらひょっとするといい奴の可能性もある。この塔から連れ出してくれるかもしれないのだ。期待した。
そうしてやってきた人生二度目の王子。
ラプンツェルは塔を登る男を見て、目を疑った。
前回とは違う男だったのだ。
前回は、確か赤い騎士服のようなものを着ていたはずだ。しかしいま塔を登る男は、紺色のヒラヒラした服。
しかも前は黒髪だったが、今回は金髪だ。
混乱するラプンツェルの前に、金髪の王子は降り立った。
「やあはじめまして。魔女に囚われていると聞いて助けに来ました。一緒に逃げましょう」
ラプンツェルは手を差し出す金髪王子を頭から足までジロジロと見て、一歩引いた。
──差し出された手の爪が汚いのだ。
爪が汚い男は要注意である。ゴシップ誌で読んだ。
それに、着ている服は綺麗なのに、髪がなんだかペタッとしてテラテラしている。なんというか、不潔感が漂う。お風呂に入ってないんじゃないだろうか。
「い、いえちょっと……」
後退りするラプンツェルに金髪王子は前のめりで説得にかかった。一緒に逃げようと強い口調で詰め寄る。
塔から出たいは出たいが、この男とは嫌だなとラプンツェルは断った。だが納得してもらえない。
問答の末、しまいに王子は「一緒に来てくれないと君を殺して俺も死ぬ!」と言い出した。
なんと、金髪王子は不潔なだけでなく、メンヘラでもあったらしい。いよいよ同行したくない。
しかし抵抗叶わず、ラプンツェルはメンヘラ王子に胸を刺されて、死んだ。
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