煙と共に、舞う。

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私は肉体を得る依り代として雛鳥の中に入った。 雛鳥には動くものを親と思い込む習性がある。 しかし私の本体は妖気。鳥の本能には縛られない。 とはいえ、 食事や水を与えてくれたこと、 寝床を清潔に保ってくれたこと、 その手で優しく撫でてくれたこと。 私はあの人間の子に、せめて礼の一つでも伝えたい気持ちがあった。 しかし人間の声を真似る鳥はいても、言語まで理解して会話を行うものはいない。あの子の前では、ただの鳥を振る舞う他なかった。 やがて人間は戦争を始めた。 疎開先には連れていけないとなり、あの子は私を野に放った。 戦争が終わっても、貧しく生きるあの子の元には戻れなかった。あの子はきっと自分の食糧まで私に与えてしまう。 遠くから見守り、しばらくの時間が過ぎた。 一部の人間は遺体を火に焼べて弔う。 あの子を焼いた煙が空に登るのを見て、私は羽を広げた。あの子の煙の周りを何度も旋回した。羽であの子を撫でる様に。 そうだ、いつか共に空を飛びたいと願った。 あの子がその言葉を漏らし、私もそうありたいと思った。 嬉しい。 悲しい。 人間の持つ二つの感情を初めて理解した。
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