Episode.2

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 快人は上履きを脱いで手に持ち、開け放った窓に右足をかけて窓枠に飛び乗った。  次の瞬間には乗っていた窓枠を蹴り、快人は空中に飛び出していた。  そこにはなんの迷いもなく、そうすることがさも当然だとでもいっているようだった。  快人が落ちていく様はどうしてか美しかった。サーカス団の曲芸を見ているような興奮を覚えさせるものでもあり、同時に、来世に願いを込めて身を投げ出した命の儚さのようなものも感じられた。  もし誰かが今この場にいれば悲鳴や叫び声を上げていただろう。それでも、まるで神に逆らった天使が天界から堕ちていくような、どこか背徳的な美しさに目を逸らせなかった者が多かったのではないだろうか。  だが快人はサーカス団の団員でも堕天使でもない。3階から飛び降りればただでは済まないのが普通だ。  しかし快人は音もなくきれいに着地を決めた。まるで無傷のようだった。そうして手に持っていた上履きを履き直して、何事もなかったかのように特別棟のほうへ歩き出した。  その快人の一連の動きを見ていた者は幸いにして、誰一人としていなかった。  もし見ていた者がいたならば大騒ぎとなっていたことだろう。  開いていた窓から無事に特別棟へ入ることが出来た快人は、その後昼休み終了5分前に職員室に辿り着いた。  職員室にいた教師から無事に授業免除を許可してもらい、次は自分の寮の部屋に帰るために歩き出した快人。  職員室から寮までは、歩けばだいたい30~40分はかかる。寮は校舎と同じ敷地内にあるにも関わらず、とにかく他の学校とはスケールが違う国城学園は広すぎて、下手をすれば1時間近くかかったりするのだ。  快人は30分ほどかけて寮の前まで戻ってきた。だが部屋に戻る前に、寮の1階にある食品や日用品を売っているスーパーに寄ることにした。快人はよく自炊をするので、今日の夕飯の食材を買うためだった。  今は授業中だから、快人がスーパーで誰かに会うことはさすがになかった。    快人はそのまま買い物を無事に終え、今度こそ自分の部屋に戻った。 
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