ある奇妙な風習

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 それから数年後、上野課長が故郷だと言っていた辺りで大規模な土砂災害が起きた。村がひとつまるまる流されたという。ひょっとして課長の実家も巻き込まれたのではないかと気になり、お昼時間も食堂に置かれたテレビでニュースを見ていた。 「ずいぶん大きな被害が出たみたいだな」  今の上司である山原(やまはら)課長に声をかけられて頷いた。 「たしかあそこって課長だった上野さんの地元ですよね? 村の名前までは聞いてなかったから別の村かもしれませんが……」  私がそう言うと「ああ、誰かもそんなこと言ってたな。そういえば上野さん、ここ辞めてから誰とも連絡取ってないみたいなんだよなぁ。離婚したとかいう噂はちらっと聞いたけど」と心配そうにテレビを見上げた。  数日後、流された人々の捜索中に山中から白骨化した遺体が何体も出てきたというニュースが流れた。見つかったのは比較的新しい成人男性と思われるものが一体、残りは子供のものらしい。子供の遺骨は新しいものもあれば、もう何十年も経っているような古いものもあるという。その瞬間、上野課長との会話が脳裏に浮かんだ。山の奥にあるという絶対に近寄ってはいけない場所。課長はこう言ってはいなかったか。 ――〝ドウコ様〟とかいうのを祀った場所なんだって。 「ドウコってまさか……童子?」  童子のことをドウコと呼んでいたのではないか。他の村人たちに聞かれても意味がわからないように。そう、童子とは子供のこと。 「子供を……祀っていた?」  私はぶるっと身を震わせる。老人たちの奇妙な儀式と精のつく食べ物、そして行方不明となった隣村の子供たち……。今となっては真実を知る術もないが一体だけあった成人男性の遺体、その身元が気になって仕方なかった。 了
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