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どうしたの?
まだ着いてない?
窓から紗江さん見えないんだけど。
矢継ぎ早に送られてきた三通のメッセージに紗江はくすりと笑う。
席につき、窓から柊の会社を見上げる。ガラス窓に柊らしき人影を見つけ手を振れば、向こうも振り返しているように見えた。
先ほどの颯人によく似た男は、カウンター席に座っている。注文したコーヒーが届くと、男は左手でカップを持ちあげた。
「……」
颯人も左利きだった。シンと頭が冷え、足もとから沼に沈んでしまいそうになる。
いけない。
あの人じゃない。
そう自分に言い聞かせてはみるものの、紗江の頭の中はひとつの疑問でいっぱいだった。
──わたし、また『運命の人』を間違えたのかしら?
ちらり、窓の外を見て柊の影が消えたのを確認すると、紗江はハンカチを握りしめてゆっくりと立ち上がった。
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