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そう説明してみるも、看護師は「同姓同名の人はいないんですけど……」と困った顔をするばかり。そんなはずがない。あの男が嶋田翔ならば、自分が今まで見ていた嶋田翔はまぼろしだったのかと、紗江はだんだん気が遠くなっていく。
「あの、大丈夫ですか? 顔色が優れませんけど……」
今にも倒れてしまいそうな紗江を、看護師が心配そうな顔で見ている。
「本当に?」
「え?」
「本当にほかに嶋田翔さんはいないんですか?」
「……ええ。今あそこにいるのが嶋田先生で、ほかには……」
看護師の顔が心配そうな表情から、なぜか申し訳なさそうな顔に変わっていく。どこか哀れむような、嫌な目付きだった。
「わかりました。失礼します」
はっきりとそう告げ、紗江はくるりと踵を返す。ここに翔がいないのならば、いつまで留まっていても仕方がない。途方に暮れ不安定に揺れる心を必死に抱きしめながら、紗江は振り返ることなく、その場をあとにした。
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