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花を買いに行くと出ていった紗江を恋人である柊があとをつけた。以前から精神的に問題を抱えていて心配だったため、そうするしかなかったと柊は証言。これに関しては紗江が何年も心療内科に通っていることが大きな証拠となった。夕貴はたまたまその場に居合わせただけで、紗江のことも柊のことも面識がない。店じまいをして帰ろうと思った矢先に紗江がやってきて、いきなりバッグからナイフを取りだし自身の脇腹に突き立てた──ほかに目撃者もおらず、ナイフからは紗江の指紋が検出されたこともあり、この一件は紗江の自殺未遂として処理されたのだった。
「──どうしてよ」
綾美がつぶやく。
「どうして逃がしたの」
「……勘違いしてたのよ」
「勘違い?」
「話すからこっちに来てくれないかしら?」
こっちと紗江がベッド横にあるパイプ椅子を指さす。個室でほかには誰もいない。綾美は仕方なく病室へと入り、スライド式の戸をぴっちりと閉めると、紗江のベッドへ近付いていった。
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