3-1『紗江』

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 長い話になるわ。  まずね、綾美さん。あなたも隼人さんも、それから翔……ううん、柊くんも、わたしのこと頭のおかしい女だと思っていたでしょう? それは半分正解で半分間違ってる。  わたしは隼人さんに綾美さんという奥さんがいたことも、夕貴さんという恋人がいたことも知ってた。どうして驚くの。知らないはずがないでしょう? だって何年も隼人さんを追いまわしていたんだから、知りたくなくても知ってしまうわよ。  綾美さん、わたしには恋人がいたの。町田さんていってね。名前は──颯人。漢字は違うけど今村さんと同じ、はやとさん。  優しくて好奇心旺盛で、植物の好きな人だった。結婚の約束もしたわ。プロポーズされた時は、もう嬉しくて嬉しくて……これ以上ないってくらい幸せだった。  でも……颯人さんにはほかにも恋人がいたの。男の人。彼はバイセクシャルだったのね。それで、婚約期間中にそのことを打ち明けられた。  彼、なんて言ったと思う?  女性の中では紗江ちゃんが好きだけど、ぼくにはもうひとり好きな人がいるんだ、って。  意味がわからなかった。パニックよ。彼はこうも言った。
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