3-1『紗江』

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 颯人さんはだんだん元気をなくしていって、わたしになにか言われるたび「ごめんね」って謝るようになった。なにを言っても、ごめんごめん。それがまた腹がたって、わたしは歯止めが効かなくなっていった。  そして──結婚式一週間前の夜。  わたしは颯人さんの実家におじゃましていた。お義母さんがみんなで食事をしましょうって、わたしとわたしの両親を招待してくれたの。わたしはお義母さんと一緒にお台所に立って、料理を教わった。もともと料理は得意だったけど、おふくろの味ってやつを学びたくて。お義母さんは「座ってていいのよ」なんて言ってたけど、すごく嬉しそうだった。颯人さんのところは男兄弟で女の子がいなかったから、お義母さんは「紗江さんみたいな娘ができてうれしいわ」って、そう言ってくれた。  大皿に料理を盛って、それを食卓に運んで。お父さんたちは、もうビールを飲んでて顔を真っ赤にしてね、娘をよろしくなんて言って……幸せな光景だった。その時は颯人さんも同席してたんだけど、ふと気付いたらいなくなってて、お義母さんが部屋まで颯人さんを呼びにいったの。
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