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ただ、わたしがそんな颯人さんのことを受け入れず、責め立てていたことは知らなくて……そのことを彼のほうから聞いたんだと思う。
なにもかもを失ったわたしは心を病んで心療内科に通うようになった。後悔と懺悔の日々が続いたけれど、だからといって、どうすれば良かったのかという答えはでなかった。
わたしが間違っていたのか。
あるいは、わたしが去れば良かったのか。
深い悲しみと後悔の中、その答えが見つからないことが苦しかった。真っ暗なトンネルからずっと抜け出せずにいたの。時間ばかりが流れて、新しい恋もできないままに30を過ぎた。もうきっと一生、わたしはひとりで生きていくんだって、そう思ってた。
そんな時に、隼人さんと出会ったの。いつものようにカウンセリングを受けて帰るところだった。隼人さんは薬局で薬が処方されるのを待っていて──。
「今村さーん。今村隼人さーん」
受け付けの女性が名前を呼んで、わたしはハッとして立ち止まった。振り向いて隼人さんのことを見て、素敵な人だなって思ったの。名前が同じなのも運命かもしれないなんて思って──だから賭けをしたの。
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