3-1『紗江』

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 今思えば、わたしは単に過去をやり直したかっただけなんだと思うわ。うまく愛せずに颯人さんを傷付け死に至らしめてしまった過去を、隼人さんで上書きしたかったのだと思う。  あなたと隼人さんが結婚したことを知っても、わたしは諦めることができなかった。あなたのことを自分だと思うことで、なんとか自我を保ってたの。  だけど、そこに柊くんが現れた。彼のことは──本当に好きだった。どちらかといえば隼人さんより、柊くんのほうが彼に似ていたから。心がゆらゆら揺れて、隼人さんのことを愛したいと思う反面、このまま柊くんと生きていけたらいいとさえ思った。  身勝手よね。自分は颯人さんに、わたしだけじゃ駄目なのかって責め立てたくせに。  きっとその罰がくだったのね。隼人さんは、柊くんとのことをネタにわたしに離婚を申し込んできた。もちろん、結婚の事実がないということは、わたしだってわかってた。でも、そうまでしてこの人はわたしと離れたいんだなって、そう思ったから、わたしはそれに応じたの。  まさか柊くんのことも『仕込み』だなんて、その時は思いもしなかったけれど。
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