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「──結論から言うとね。原田さん、あなたその嶋田って男に騙されたんじゃないの?」
翔の失踪から三日が過ぎた。その三日の間、紗江は自分なりに翔を探してもみたのだが、その姿はどこにも見つからなかった。病院の周辺、ふたりで行ったカフェにレストラン、翔の好きなラーメン屋……思い出の場所はあまりに少なく、そして、翔を探しだすには、あまりに紗江は翔のことを知らなかった。
いつだったか、翔の部屋に行ってみたいとねだったことがある。けれど翔は
『ダメだよ。狭くて汚いし』
『それに──』
『誰かに見られたら紗江さんが後ろ指をさされちゃうじゃない』
そんなのやだよと笑った翔の悲しそうな笑顔を、紗江は今も鮮明に覚えている。だからこそ、紗江は一度たりとも翔を疑わなかった。素直で純粋で、とびきり優しい。そんな翔が自分を騙すなど、いま目の前にいる男にはっきり告げられても、紗江は首を縦に振ることはできそうもなかった。
室戸祐司40歳。興信所の所長である。小柄な体躯にぼさぼさの髪。寝不足なのか、さっきから何度もあくびをしてはコーヒーをがぶ飲みしている。紗江が話をしている間も、室戸は何度も眠そうに目を擦っては適当に相づちを打つものだから、ここへ来たことを紗江は後悔しそうになったが、今はとにかく誰でもいいから話を聞いてほしかった。
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