3-1『紗江』

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 わたしから見ると、綾美さん、あなたは『わたし』だった。隼人さんに夕貴さんという男性の恋人がいることを知りながら隼人さんを愛し、そして愛されていると思っていたの。すごく羨ましかった。そう思うと同時に、どうしてわたしはそれができなかったんだろうって、また悔いて、懺悔して……感情はぐちゃぐちゃに崩れていった。  でも違ったのね。あなたの妊娠が偽装だとわかって、あなたと隼人さんが離婚したとわかった時、ようやく気付いた。あなたはわたしじゃなかったんだって。  酷い話だし、わたしは酷い女よ。あなたがわたしよりも幸せじゃないってことが、わたしをおだやかな気分にさせた。それと同時にあなたに同情したし、申し訳ない気分にもなった。だって少なくとも、風船が割れなければあなたの幸せは続いたんだろうし、あなたの計画通りに事は進んでいったのだと思うから。  あなたがわたしのことを狙っているのも気付いてた。もちろん、柊くんがあとをつけてたこともね。気が気じゃなかったわ。わたしのことだけ殺してくれればいいけど、もしかしたら隼人さんや柊くんにまで危害が及んだらどうしようって。だから、ふたりをなんとか守れるようにと思って、隼人さんを監視してたの。わたしが動けば柊くんは必ずついてくる。隼人さんと柊くん、ふたりを監視下においておけば、いざという時にはわたしがこの身を差し出せばどうにかなるだろうって。
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