3-1『紗江』

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「──あとは知っての通りよ」  話し終え、紗江はふうっと息をつくと、窓の外に目をやった。 「どうして逃がしたの」 「それは……せめてもの罪滅ぼしよ。それに、あなたが捕まったらわたしも隼人さんも、それから柊くんも、いろいろと面倒なことになるでしょう?」  窓の外は初秋の青々とした空が広がり、眺めているだけで心がシンとおだやかになっていく。 「……死んだかもしれないのに」 「あら。心配してくれるの?」 「違うわよ!」  綾美が声を荒げ、怒ったように病室の戸口へと向かう。 「綾美さん」 「……なによ」 「髪。伸ばしたほうが似合うわよ」  紗江の言葉が綾美の背中へと優しくぶつかってくる。男の子のように短くした髪。それは女性を愛せない隼人に対する、綾美のちいさな努力でもあった。 「……わかってるわよ、そんなこと」  互いにもう二度と会うことはないだろうとわかっている。だからこそ綾美は躊躇し、紗江は振り向かない背中を見つめ続ける。
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