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「──あとは知っての通りよ」
話し終え、紗江はふうっと息をつくと、窓の外に目をやった。
「どうして逃がしたの」
「それは……せめてもの罪滅ぼしよ。それに、あなたが捕まったらわたしも隼人さんも、それから柊くんも、いろいろと面倒なことになるでしょう?」
窓の外は初秋の青々とした空が広がり、眺めているだけで心がシンとおだやかになっていく。
「……死んだかもしれないのに」
「あら。心配してくれるの?」
「違うわよ!」
綾美が声を荒げ、怒ったように病室の戸口へと向かう。
「綾美さん」
「……なによ」
「髪。伸ばしたほうが似合うわよ」
紗江の言葉が綾美の背中へと優しくぶつかってくる。男の子のように短くした髪。それは女性を愛せない隼人に対する、綾美のちいさな努力でもあった。
「……わかってるわよ、そんなこと」
互いにもう二度と会うことはないだろうとわかっている。だからこそ綾美は躊躇し、紗江は振り向かない背中を見つめ続ける。
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