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紗江の困惑をよそに室戸は寒い寒いと肩を抱くようにしながら、奥の座敷へとあがっていく。
「大将、熱燗頼むよ。あと、ちょっとだけ原田さん借りてもいい?」
「紗江ちゃんの知り合いかい?」
「……ええ、まあ」
一体なんの用があって室戸がやってきたのか、紗江には見当もつかない。だが、東京から離れたこんな辺鄙なところへ室戸がやってきたということは、居場所を調査されたということなのだろう。
……誰の依頼で?
「熱燗お待ち!」
その声にハッとし、紗江はカウンターから出された熱燗をお盆に乗せて運んだ。
「……こちらはつきだしとなります」
「お、旨そう」
小皿に盛られているのは、きんぴらごぼうとタコときゅうりの酢の物。早速、箸を手にきんぴらを口に放り込むと、室戸はお猪口をくっと煽った。
「はあー生き返るわ。原田さんも飲みなよ」
「いえ、わたしは……そんなことより、どうしてここに?」
室戸がカバンの中から茶封筒を取り出す。
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