1-1『紗江』

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「騙すってそんな……」 「だってそうでしょ。そのー……なんとかっていう病院に行っても彼はいなかったわけでしょ」 「ええ、まあ」 「で、なんだ……同じ名前のスタッフはいたけど別人だった」 「そうです」  意外にちゃんと話を聞いていてくれたのだなと、紗江は少しほっとする。 「でもって、電話は繋がらない。向こうから連絡もない」 「そうです」 「原田さん……そうですじゃないのよ、ったく。詐欺。ね? それは結婚詐欺」  わかったらとっとと帰ってくれとばかりに、また室戸が大きなあくびをする。紗江とて馬鹿ではない。室戸に言われずとも、その可能性も考えた。だが。 「翔くんにお金は一銭も渡してないんですよ?」  あくび途中の室戸が「ふぇ?」と妙な声をあげる。 「だから騙すもなにも、お金はとられてないんです」 「……高価なものを買ってあげなかった?」 「ないです」 「えーと、じゃあ、なんだ。なにか売り付けられたとか」 「ありません」 「んん……じゃあ、あれだ。宗教。カルト。入信したりは?」 「してません」
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