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外はまだ雪が降りしきっている。すべてを話し追えた室戸は紗江からコートを受け取ると、袖を通しながら紗江に言った。
「雨宮くんが嶋田くんなんでしょ?」
「……」
「原田さん以前、相談にきたじゃない? その時、ああこの人はその嶋田くんが好きなんだなあって思ったよ」
どこかすっとぼけた顔をしている室戸だが、実のところは相当の腕利きなのかもしれないと紗江は思う。
「……もう過去のことです」
「そう? まあいいや。あと、これはお土産」
コートのポケットに手を突っ込み、室戸が取り出したのは一枚の名刺だった。室戸の名前と興信所の連絡先が書いてある。
「それじゃ」
室戸を見送ったあと、何気なく名刺の裏を返してみると、そこには柊の居場所が明記されていた。室戸が書いたのだろう。やたらとまるっこい文字で『雨宮くんの居場所』と書きつけてあり、その下に住所が書いてある。
会いに行けってことなのかしら?
室戸の計らいは有り難かったが、今さらどんな顔をして柊に会いに行けるというのか。あの事件があって心配して毎日見舞いに来てくれた柊に、もう一緒にいる必要はないと、その優しい手を払いのけたのは自分のほうだ。
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