3-1『紗江』

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 柊には、ずいぶんと迷惑をかけたし時間も無駄にさせた。これ以上は柊の人生を縛るわけにはいかないと、東京を離れもした。それでも尚、柊はこうして自分の元へ室戸を寄越し、綾美と隼人の現在を知らせてくる。安心させようと思ってのことだろう。  そして颯人のことは──紗江が過去に縛られないよう、これ以上自分を責めることのないよう、紗江の知らなかった颯人の真実を運んできた。  柊が室戸に依頼したのは、颯人の自殺要因について。本当に紗江とのことだけが原因だったのか、どうか。もう十年以上も前のことで、当の颯人は存在しないし遺書も見つかっていない。当時のことを知っているのは颯人の両親、そして、颯人のもうひとりの恋人だけ。室戸の調査は難航したらしい。 『苦労したよ。だって、ご両親にコンタクトはとるなって雨宮くんが言うからさ』 『当時のことを思い出させて辛い想いをさせるのは、紗江さんの望むところではないと思うから、とか言うんだもん』  結局、室戸は颯人の恋人だった森谷(もりや)七瀬(ななせ)から話を聞き出し、そこから調査の幅を広げていったらしい。
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