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「優しい、いい子で。困ってる人を放っておけないの。いつも自分を犠牲にして、欲しいものも欲しいって言わない子だったわ」
「……わかるような気がします」
「そう? 原田さん、あの子が欲しがっていたもの、なんだかわかるかしら?」
「柊くんが欲しがっていたもの……」
そんなもの、紗江にわかるはずもなかった。
「愛よ。愛情」
ふふふと笑い、園長が立ちあがる。
「もちろん、わたしたちも精一杯の愛情を注ぎましたよ。でもね、ここではそれをひとりじめすることができない。だから、ずっと子どもたちは渇望する。可哀想なくらいにね」
デスクの引き出しからなにかを取り出し、それを紗江に差し出してくる。花柄のかわいらしい紙袋。
「あなたが来たら渡してほしいって。来なかったらどうするつもりだったのかしらね」
手のひらサイズの紙袋の中身──それはハンカチだった。
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