3-1『紗江』

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「優しい、いい子で。困ってる人を放っておけないの。いつも自分を犠牲にして、欲しいものも欲しいって言わない子だったわ」 「……わかるような気がします」 「そう? 原田さん、あの子が欲しがっていたもの、なんだかわかるかしら?」 「柊くんが欲しがっていたもの……」  そんなもの、紗江にわかるはずもなかった。 「愛よ。愛情」  ふふふと笑い、園長が立ちあがる。 「もちろん、わたしたちも精一杯の愛情を注ぎましたよ。でもね、ここではそれをひとりじめすることができない。だから、ずっと子どもたちは渇望する。可哀想なくらいにね」  デスクの引き出しからなにかを取り出し、それを紗江に差し出してくる。花柄のかわいらしい紙袋。 「あなたが来たら渡してほしいって。来なかったらどうするつもりだったのかしらね」  手のひらサイズの紙袋の中身──それはハンカチだった。
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