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紗江のきっぱりとした返事に、ようやく室戸は興味を示したようで、ずいっと前のめりになって聞いてきた。
「だったら、なんで消えたの?」
「知らないですよ。だからこうして探偵さんにお願いしに来たんじゃないですか」
「いや、まあ、でも。偽名だったわけで病院にも勤務してないんでしょ」
「偽名かどうかは知りませんけど、翔くんが白衣を着て病院から出てくるところは見たことがあります」
「そんなの簡単だよ。白衣なんてどこでも手に入るし、見たのは働いてるところじゃなく、出てきたところなんでしょ」
そう言われてしまうと紗江も言葉に詰まってしまう。室戸の言う通りだ。白衣など手に入れようと思えば誰だって簡単に入手できる。総合病院ともなれば、見知らぬ誰かが白衣を着て紛れ込んでいても、気付く者はそういないだろう。
「あれだよ。原田さんにお金がないと踏んで、早々にトンズラしたんじゃない?」
それも紗江は返す言葉が見つからなかった。確かに貯えは多くない。だから結婚詐欺師である翔が、たいして金にならないと踏んで自分の前から姿を消した──というのも一理あるが、紗江はどうにも納得がいかなかった。
なにかが、どこかがおかしい。
「ま、被害がなくて良かったじゃない、おっと……離婚の原因にはなったのか、ごめんごめん」
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