3-1『紗江』

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「でも……」 「大丈夫。柊くんと並んで歩きたいの」 「じゃあ、これ」  これと、ポケットからカイロを取り出し紗江の冷えた手に握らせる。ほんのりと温かなそれは、まるで柊の心のようで、紗江は礼を言ってカイロを大事に握りしめた。  アパートの階段をおり、行く宛もなく歩きだす。どこからか鈴の音が聞こえてきてもおかしくないくらい、辺りはシンと静かで空気は冷たく澄んでいる。 「──まず、お礼を言うね。いろいろとありがとう」 「そんな……おれはなにもしてないよ」 「ううん。柊くんがいなかったら、今ごろどうなってたかわからないし……綾美さんや隼人さんの現状も知れて良かった。それから町田颯人さんのことも」  真実は人の数だけあって、自分の視点からだけでは見えないものもある。そういった意味では、紗江にとって柊の存在は有り難いものだった。 「ね、前にハーデンベルギアの話をしたでしょう?」 「ああ……ええと、運命の出会いだっけ?」 「そう。町田颯人さんは、ハーデンベルギアの下でプロポーズしてくれたし、今村隼人さんは刺繍のしてあるハンカチを拾ってくれた」 「……うん」
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