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ポケットの中、さくら園で返してもらったハンカチをぎゅっと握りしめる。
「柊くん、ハンカチ拾ってくれてたんだね」
「紗江さんは覚えててくれなかったみたいだけど」
拗ねる柊に、紗江は笑いながらハンカチを取り出し、刺繍された紫色の花を指先でそっと撫でた。言うべきか。言わざるべきか。ほんの少し迷ってから、思いきって口を開く。
「これはね、ハーデンベルギアじゃないの」
「……そっか。おれと紗江さんは運命の出会いじゃなかたってことだね」
柊が悲しそうに笑う。
「これは……藤なの」
「え?」
「藤の花言葉は──決して離れない」
あの時、柊の松葉杖に絡みつくようにして落ちていたハンカチ。故意的ではなく、偶然がもたらした出会い。それこそが運命なのではないかと紗江は思う。
「今さら遅いかもしれないけど……柊くんと生きていきたい。駄目かな」
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