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颯人を失ってから、なにもかもを失い手放しかけていた紗江にとって、この五年の幸福は恐ろしいほどでさえあった。失うものがなにもなかった時は感じなかったのに、今は柊と蓮を失う恐怖に満ちている。
特に柊を送り出す朝が怖い。蓮を幼稚園に送っていく、その道程が怖い。
「ママ?」
ぼんやりと玄関に立ち尽くす紗江の手を、蓮がぎゅっと握ってくる。柊によく似た愛らしい顔。しっかりしなければ。紗江は自分にそう言い聞かせ、蓮のちいさな手をぎゅうっと握り返した。
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