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翌日、紗江は隼人の自宅付近に身を潜めていた。
『こういうことってないかしら? 例えば――』
『隼人さんがわたしと別れるために、翔くんを雇ったとか……』
『ああ、それはあるかもしれないね。別れさせ屋とかなんでも屋に依頼すれば可能だと思うよ』
室戸は、一応警察に相談してみたら? とも提案してきたが、紗江にそのつもりはまったくなかった。今となっては翔がどこの誰で、どこにいるかなど、紗江にはどうでもいいことだ。知りたいのは、どうして翔が自分の前に現れたのか。そしてその目的はなんだったのか。
その鍵は、隼人が握っている。
もし、本当に隼人が翔を雇ったのであれば、離婚したい理由はひとつしか考えられない。女だ。自分のほかに女がいて、その女と一緒になりたいから、離婚せざるをえない状況を作りだしたに違いないと紗江は思っている。
そう考えるとすべて合点がいくのだ。隼人が浮気に気付き、紗江と翔がふたりでいるところをタイミングよく撮影されたことも、慰謝料を請求しなかったわけも、そして「二度とぼくの前に現れないでくれ」という懇願も──。
「じゃあ、行ってくる」
玄関の扉が半分開き、隼人の声が聞こえてくる。約十日ぶりに聞く隼人の声に、紗江は性懲りもなく胸を高鳴らせた。しかし、現実は残酷だった。
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