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二週間後──。
紗江は大倉総合病院に来ていた。体調が優れず、もともと服用していた定期薬が切れてしまったからだ。診察を終え薬袋を片手に病院を出ると、五月のいたずらな風が紗江のワンピースをぶわりと膨らませた。
足にまとわりつくスカートに顔をしかめ、強い風に乱される髪を手で押さえながら帰路を急ぐ。道路へと続く階段の手前で風が一層強さを増し、紗江は手に持っていた薬袋を落としてしまった。ばらばらと中身がこぼれ、ため息をついてしゃがみこむ。
「──大丈夫ですか?」
不意に影が落ち、誰かが紗江の前にしゃがみこんだ。長く細い指が散らばった薬を拾ってくれている。
「すみませ……」
顔をあげた紗江の前にいたのは……。
「翔……くん?」
しゃがみこんでいたので、相手も紗江とは気付かなかったのだろう。薬を拾う手がぴたりと止まり、ハッとしたように立ちあがる。拾った薬を紗江に押し付け慌てて立ちあがるその男は、やはり紗江の知っている嶋田翔だった。
背を向け逃げ出そうとする翔に、紗江はすがるようにその名を呼んだ。
「待って! 翔くん、待って!」
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