![d1cea2bc-c312-4270-a564-db3602b219b8](https://img.estar.jp/public/user_upload/d1cea2bc-c312-4270-a564-db3602b219b8.jpg?width=800&format=jpg)
「──離婚届はぼくがだしておくから」
金曜の昼下がり。カフェの奥まったテーブルで一組の男女が向かい合っている。男のほうは仕事の昼休憩なのか、きっちりとスーツを着込み、女のほうは春らしいワンピースに身を包んでいる。
「隼人さん……わたしのせいでごめんなさいね」
女がハンカチで目もとを押さえる。
「……いいんだ。ぼくにも至らないところがあったんだろうし」
離婚の原因はどうやら女のほうにあるらしかった。伝票を片手に男が立ちあがる。そして、なにやら険しい顔つきで女を凝視すると、男は静かにこう言った。
「条件、わかってるよね?」
「……はい」
「それならいい。じゃあ、ぼくはこれで」
カフェの片隅で交わされた、離婚をする夫婦の短い会話。どこにでもある光景である。
しかしながら、このふたりに関しては決して『どこにでもある』話でも、ごくごく普通の離婚でもないということを、
男のほうだけが知っていた──。
最初のコメントを投稿しよう!