1-1『紗江』

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d1cea2bc-c312-4270-a564-db3602b219b8 「──離婚届はぼくがだしておくから」  金曜の昼下がり。カフェの奥まったテーブルで一組の男女が向かい合っている。男のほうは仕事の昼休憩なのか、きっちりとスーツを着込み、女のほうは春らしいワンピースに身を包んでいる。 「隼人さん……わたしのせいでごめんなさいね」  女がハンカチで目もとを押さえる。 「……いいんだ。ぼくにも至らないところがあったんだろうし」  離婚の原因はどうやら女のほうにあるらしかった。伝票を片手に男が立ちあがる。そして、なにやら険しい顔つきで女を凝視すると、男は静かにこう言った。 「条件、わかってるよね?」 「……はい」 「それならいい。じゃあ、ぼくはこれで」  カフェの片隅で交わされた、離婚をする夫婦の短い会話。どこにでもある光景である。  しかしながら、このふたりに関しては決して『どこにでもある』話でも、ごくごく普通の離婚でもないということを、知っていた──。
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