1-1『紗江』

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 女の名前は原田(はらだ)紗江(さえ)。年齢は38歳。もうすぐ四十路に突入するが、紗江はとても美しかった。今の時代、一重まぶたは流行らないのだろう。だが、紗江のそれはやさしい弧を描いており、一見すると地味にも見えるが、清楚で奥ゆかしい『男受けする』顔だちをしている。  派手さは皆無で、男のあとを三歩後ろからついていくような──優しそうで上品でたおやかな魅力のある女、それが原田紗江だ。  そんな紗江が、なぜ離婚することになったのか。  カフェをでた紗江は、白いワンピースをはためかせながら、肩にかけた小ぶりのバッグからスマートフォンを取りだした。通行人のじゃまにならないよう、道の端へと寄り立ちどまる。誰かの電話番号を呼びだし、紗江はなにも塗られていない爪でカツンと画面をタップした。  コールすること三回。 「あ、もしもし? 翔くん?」 『うん。どうしたの?』 「今ね、話が終わったところ」 『そっかあ……じゃあ、もう紗江さんは独身なんだね』  電話の相手、翔からの言葉に、紗江がふふっと笑い肩をすくめる。そう。この電話の相手こそが、紗江が離婚に至った原因だった。  嶋田(しまだ)(しょう)28歳。職業は──理学療法士。
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