96人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうしたの? 疲れちゃった?」
珍しいなと思う。いつもは、それがどんなことであっても楽しむ姿勢を崩さないのが颯人で、紗江はそんなところが一等好きだった。不平や不満を言わず、マイナスの状況も楽しむ。明るくポジティブで威張ったところが少しもない。少年がそのまま大人になったような颯人が、今日は珍しく年相応の大人の顔をしている。
「──紗江ちゃんに話したいことがあるんだ」
赤信号で車が停まると、颯人はハンドルに腕を預け前を向いたままで、そう切り出してきた。
「なあに?」
「うん……落ち着いて話したいから一旦どこかに停めるね」
信号が青に変わり車がゆるやかに発進する。横断歩道を越えた先に公園がある。その駐車場へと車をつけエンジンを切ると、颯人が思い詰めた顔で紗江に向き直った。
「あのね、驚かないで聞いてほしいんだけど」
「うん」
「ぼく……バイセクシャルなんだ」
思いがけない颯人の告白に、紗江は一瞬ぽかんとする。単語の意味はわかるが理解が追い付かない。
「ええと……うん。それで?」
最初のコメントを投稿しよう!