2-1『紗江』

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「どうしたの? 疲れちゃった?」  珍しいなと思う。いつもは、それがどんなことであっても楽しむ姿勢を崩さないのが颯人で、紗江はそんなところが一等好きだった。不平や不満を言わず、マイナスの状況も楽しむ。明るくポジティブで威張ったところが少しもない。少年がそのまま大人になったような颯人が、今日は珍しく年相応の大人の顔をしている。 「──紗江ちゃんに話したいことがあるんだ」  赤信号で車が停まると、颯人はハンドルに腕を預け前を向いたままで、そう切り出してきた。 「なあに?」 「うん……落ち着いて話したいから一旦どこかに停めるね」  信号が青に変わり車がゆるやかに発進する。横断歩道を越えた先に公園がある。その駐車場へと車をつけエンジンを切ると、颯人が思い詰めた顔で紗江に向き直った。 「あのね、驚かないで聞いてほしいんだけど」 「うん」 「ぼく……バイセクシャルなんだ」  思いがけない颯人の告白に、紗江は一瞬ぽかんとする。単語の意味はわかるが理解が追い付かない。 「ええと……うん。それで?」
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