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「向こうは紗江ちゃんのことも知っていて、納得した上で付き合ってるから、ぼくと紗江ちゃんの結婚も喜んでくれててね」
「っ、だから、わたしにも納得しろと!?」
「……できれば。今まで黙ってて申し訳なかったと思ってる。でも、本当にぼくは紗江ちゃんが好きで、彼のことも好きで、どっちかを選ぶなんてできないんだ」
ずいぶんと勝手で呆れた言い種だと思う。けれど、それが颯人らしいとも思えてしまう。誰にでも分け隔てなく優しい颯人は、もしかしたらふたりの人間を平等に愛せるのかもしれないと──だが。
「選べないってことはどっちも好きじゃないってことじゃないかしら」
「……うん、わかるよ。そういうふうに思われても仕方ないと思う」
言わずに黙っていることもできたはずで、それを今、素直に告白している時点で颯人は誠実なのだろう。でも、だからといって簡単に納得できるものではないし、颯人の言い分から察するに『彼』と別れるつもりはないのだろう。やはり紗江には理解も納得もできなかった。
「──もし。もしも、その彼が女性だったら? 颯人さんはそれでも、どっちも好きになるの?」
「紗江ちゃん。ぼくは彼が『彼』だから好きなんだ。女性だったら好きになってない」
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