2-2『綾美』

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 自分からなにもかもを奪った女である。だが、紗江からすれば、なにもかもを奪ったのは綾美である。 「……どうすればいい……どうすれば……」  紗江を殺したところで隼人は戻ってこない。 「そうよ。あんな女を殺したって意味なんかない」  自分に言い聞かせるように、そう口にだす。すれ違った男性がぎょっとした顔で綾美を振り返る。 「隼人を取り戻すためには──」  アイツを殺せばいい。  思いがけない発想の転換に、綾美はにやりと口もとを歪めた。殺すべきは紗江じゃない。子犬でもない。だって、自分からなにもかもを奪ったのは紗江ではなく『アイツ』なのだから。
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