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一番に報告したくて。その言葉は親友というポジションならば最高の言葉だったろう。いや、親友なのだ。親友でしかないのだ。今それを綾美はこの場ではっきりと感じ、ただただ顔がひきつらないようにするだけで精一杯だった。
「綾美は? ぼくばかり相談にのってもらってたから……綾美はいないの? 好きな人」
好きな人なら、今、目の前にいる。けれど、それは決して口にできない。
「わたしは……今はいないかな」
「そっか。じゃあ、もし好きな人ができたら、その時はぼくも話を聞くから」
なんでも相談してと、隼人が優しく笑う。その横で夕貴もほほえみながら頷いている。
綾美は後悔していた。こんなことなら最初に嘘をつくべきではなかった。あんな嘘をついたばかりに、自分は今こうして隼人から信頼され恋人まで紹介される羽目に陥っている。隼人のそばにいたいがためについた嘘だったが、それは『親友』というポジションでしか効果を発揮できなかったようだ。
嘘をついてもつかなくても成就しない恋ならば、あの時、きっぱりと諦めていれば良かった。嘘をついて隼人のそばにいる権利を得たのに、これではなんの意味もないじゃないか──幸せそうなふたりを見ながら、綾美は過去の自分を激しく悔いた。
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