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そこで出会ったのが綾美である。
小柄で童顔。愛らしい顔に女性らしいラインの身体つき。髪型も服装もいかにも男受けが良さそうで、事実、綾美はその合コンで一番人気だった。
隼人はといえば、ただ単に人数合わせのために来ただけで、目的はタダ飯とタダ酒。一番端の席に座り運ばれてくる料理を黙々と食べ、ここぞとばかりにビールを注文する。
とはいえ、まったく話さないわけにもいかなかったので、皆の話を聞いているフリで相づちを打ち、話しかけられれば気さくに応じた。そうやって適当に時間を浪費しているうちに、ひとりの女性があからさまに視線を寄越してくることに気付いた。
……面倒だな。
隣に座っている後輩にトイレに行くと告げ席をたつ。どこかに休憩スペースはないかと探していると、店の一角に喫煙コーナーを見つけた。ガラスで仕切られた狭いスペースには灰皿だけが置いてある。幸い誰もいない。隼人は迷うことなくその喫煙コーナーへと足を踏み入れた。
ガラスの仕切りに背を預け、ため息をひとつ。いつだってこうだ。その気もないのに女性が向こうからやってくる。杉子の教え通りに生きてきただけなのに、それが今こんなにも息苦しい。厳しくはあったが杉子の教えは決して悪いものではなかった。
だが──。
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