2-3『隼人』

3/11

93人が本棚に入れています
本棚に追加
/139ページ
 そこで出会ったのが綾美である。  小柄で童顔。愛らしい顔に女性らしいラインの身体つき。髪型も服装もいかにも男受けが良さそうで、事実、綾美はその合コンで一番人気だった。  隼人はといえば、ただ単に人数合わせのために来ただけで、目的はタダ飯とタダ酒。一番端の席に座り運ばれてくる料理を黙々と食べ、ここぞとばかりにビールを注文する。  とはいえ、まったく話さないわけにもいかなかったので、皆の話を聞いているフリで相づちを打ち、話しかけられれば気さくに応じた。そうやって適当に時間を浪費しているうちに、ひとりの女性があからさまに視線を寄越してくることに気付いた。  ……面倒だな。  隣に座っている後輩にトイレに行くと告げ席をたつ。どこかに休憩スペースはないかと探していると、店の一角に喫煙コーナーを見つけた。ガラスで仕切られた狭いスペースには灰皿だけが置いてある。幸い誰もいない。隼人は迷うことなくその喫煙コーナーへと足を踏み入れた。  ガラスの仕切りに背を預け、ため息をひとつ。いつだってこうだ。その気もないのに女性が向こうからやってくる。杉子の教え通りに生きてきただけなのに、それが今こんなにも息苦しい。厳しくはあったが杉子の教えは決して悪いものではなかった。  だが──。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加