93人が本棚に入れています
本棚に追加
/139ページ
「今村さん、でしたよね?」
喫煙コーナーの入口、綾美が中を窺うようにして立っている。
「え、ああ、はい。ええと、煙草を?」
瞬時に名前は思い出せなかった。
「あ、いえ。煙草は吸わないんですけど……ちょっとお話したくて」
断る理由はどこにもなく、逃げる場所もどこにもなく、隼人は諦めてちいさく頷いた。こうなってしまっては仕方がない。先手を打つよりないだろうと、隼人は努めて明るい声で言った。
「ぼく、人数合わせのために呼ばれただけで、本当は気が乗らなくて」
遠回しに女目当てで来たのではないと伝える。
「そうなんですか? じゃあ、わたしと一緒ですね」
「え?」
「なんで驚くんですか。わたしも今村さんと同じ。ピンチヒッターってやつです」
「なるほど。4番打者だ」
「どういう意味ですか、それ」
「いや、ほら。ピンチヒッターってここぞって時のための打者でしょ? そういう意味では……君は4番かなって」
褒めたつもりだった。一番人気で男性陣の視線を独り占めしている綾美に対する賛辞。
最初のコメントを投稿しよう!