2-3『隼人』

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「今村さん、でしたよね?」  喫煙コーナーの入口、綾美が中を窺うようにして立っている。 「え、ああ、はい。ええと、煙草を?」  瞬時に名前は思い出せなかった。 「あ、いえ。煙草は吸わないんですけど……ちょっとお話したくて」  断る理由はどこにもなく、逃げる場所もどこにもなく、隼人は諦めてちいさく頷いた。こうなってしまっては仕方がない。先手を打つよりないだろうと、隼人は努めて明るい声で言った。 「ぼく、人数合わせのために呼ばれただけで、本当は気が乗らなくて」  遠回しに女目当てで来たのではないと伝える。 「そうなんですか? じゃあ、わたしと一緒ですね」 「え?」 「なんで驚くんですか。わたしも今村さんと同じ。ピンチヒッターってやつです」 「なるほど。4番打者だ」 「どういう意味ですか、それ」 「いや、ほら。ピンチヒッターってここぞって時のための打者でしょ? そういう意味では……君は4番かなって」  褒めたつもりだった。一番人気で男性陣の視線を独り占めしている綾美に対する賛辞。
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